大阪府公文書館 - 大阪あーかいぶず第45号
-閲覧予約- 予約一覧参照 ● 閲覧予約に関する詳細はこちら
大阪府公文書館トップページ>[大阪あーかいぶず第45号]
 
  
 大阪 あーかいぶず第45号

archives(あーかいぶず)とは、英語で記録資料・文書館という意味です。
目   次
 大阪府公文書館における個人情報の取り扱いに関連して…1頁
 平成21年度公文書館アーカイブズ・フェアを振り返って………7頁
 第24回大阪公文書館運営懇談会……………………………10頁
第44号 平成22年3月 大阪府公文書館発行

■大阪府公文書館における個人情報の取り扱いに関連して
  大阪府公文書館 調査役 米澤 剛(よねざわ たけし)

 ここ3年大阪府公文書館で働き、保存資料の閲覧時における個人情報の閲覧可否の審査に携わってきた。もうじき再任用期間も終了し離職するが、館が保存する歴史資料類の活用に役立てばと思い、資料の閲覧についてこの3年間、経験してきたこと、疑問に思ったことを記す。

 公文書館は、「歴史的文書資料類等の」「収集及び保存を行い、これを調査及び研究に供する」施設であり、その業務は「府に関する歴史的文書資料類の収集、整理及び保存」、「府に関する歴史的文書資料類の展示及び閲覧」等に関することである。保存資料を閲覧に供することが公文書館の重要な使命であることが示されている。それでは、公文書館の保存資料はすべて閲覧に供すべきものであろうか。歴史的価値があり、調査研究に必要な資料であればあるほど閲覧に供する必要性が高くなり、特に起案文書は、ほとんどの場合、唯一のものであることから、当該資料の持つ歴史的価値は特に高い。公文書館は、そのような需要に応えるため、資料を収集し、整理・保存しており、資料を閲覧していただくことが最大の使命であることはいうまでもない。

 そこで、公文書館保存資料と「情報公開条例」、「個人情報保護条例」との関係が問題になる。公文書館の保存資料は、「実施機関が、府民の利用に供することを目的として管理しているもの」(情報公開条例2条1項1号、個人情報保護条例2条4号ア)であるから、両条例は適用されないとされている。
公文書館では、そのことを前提にして、「利用要領」において、「歴史的文書資料類等の閲覧については、大阪府情報公開条例及び大阪府個人情報保護条例の趣旨を尊重しなければならない。」と規定し、両条例と同じ基準に基づいて資料を閲覧に供している。

 しかしながら、両条例が保護した情報及び権利、また情報公開条例が明らかにした権利は、現用文書に記載されている情報に関してのみ認められるべき性質のものではない。同じ類型の情報、もしかすると同一の情報が公文書館保存資料にも記載されていることがありうる。それらも同じように保護されるべきであり、また法的な権利としての閲覧請求権が公文書館保存資料についても認められるべきではないか、という疑問が生じるのである。かつて、情報公開室(府政情報室の前身)のある職員も同じような疑問を漏らしていた。
条例の「府民の利用に供することを目的として管理」という文言について言えば、情報公開条例制定当時には、大阪府公文書館は存在していないから、対象として考慮されたのは、図書館と博物館の保管資料である。これらの施設、特に図書館の所蔵資料は、市販の書籍等の公刊されたものと郷土資料等である。それらは、誰に対してもその求めに応じて閲覧させることができ、「閲覧請求」「公開決定」という手続きは不要であった。従って、「行政文書・・・の公開を求める権利」を明らかにする情報公開条例の対象としなかったのであろう。それは当然であり、制度創設に際し、この条項についての議論はなかったと思う。
一方、公文書館で保存している資料は、保存期間は満了しているものの、そこに記載されている情報は、現用だったころと同一である。ただ、歴史的・文化的価値があることから選別されて保存されているだけであって、その内容が現用文書であるときに一般の閲覧に供することができないものであれば、公文書館においても閲覧に供することはできないだろう。
情報公開制度発足にあたり、公開請求に応じることにより地方公務員法34条に規定する守秘義務違反に問われる職員が続出するのではないか、という危惧が表明されたことがある。それに対しては、決裁権者が決裁して公開するのだから、個々の職員の守秘義務は解除され、公開しても担当者が守秘義務違反に問われることはない、という回答がなされたと思う。ただ、将来公開・非公開を判断するときの参考とするため、起案書に「公開」「非公開」と期限を定めての非公開の欄が設けられた。公開とされた文書と時限非でその期間が満了した文書は、請求があれば直ちに公開すればよいし、請求以前に情報提供することもできるだろう。非公開となっている公文書だけ、公開できないかどうか検討すればよいことになる。非公開とすべき情報はごく少なく、当初、情報を求めて来庁したほとんどの方に情報提供で満足していただいたと思っている。府民の公開請求権を背景にして、情報公開担当職員が所管課職員に情報提供か公開を求める構図は今でもあまり変わっていないのではないか。そこで提供しなかった情報を求める場合と最初から公開請求書を提出された方について公開請求、公開・非公開決定、異議申立てと進んで行ったので、公開審査会も当初危惧していたほど繁忙を極めることはなかった。

 公文書館に立ち返れば、この「非公開」文書やそれと同様の情報が記録されている文書・資料の取扱いが問題になる。もちろん古くなって既に支障がなくなったもの、周知の事実となったものもあろうが、非公開とした事情や記載事項を検討し、現在でも公開すれば事務事業に著しい支障を来たすかどうか、当該事務の担当課と協議して判断することになる。それが「条例の趣旨を尊重して」判断する、ということであろう。
今までのところ公開条例8条に該当する情報の閲覧請求はなかったようだ。条例9条の個人情報については後述する。
なお、公文書館の保存資料に記載された情報も守秘義務によって保護されていると理解している。現用文書でなくなったからといって、従来秘密だった情報が秘密ではなくなるということにはならない。その情報自身が秘密を要するから守秘義務が課されるのであり、現実に情報として存続している以上それが現在も秘密であるかどうかで判断されるからである。先述の「非公開」とされている文書は、非公開の解除がなされない限り、非公開指定されている文書であり、解除しうる条件も整っていないのに公開する(閲覧に供する)ことは、形式的には守秘義務違反になるのではないかとも思われる。そして現在でも実質的に秘密とされる内容の文書を公開すれば、守秘義務違反として、刑事罰を課されることもあるだろう。
ところで、情報公開条例の適用がない場合の問題点は、公文書館での閲覧が認められなかったときに生じてくる。もともと閲覧請求権は、憲法上の要請である、とは言われるものの実定法上、規定がなく、行使する法的根拠がなかった。見せる、見せないというのは、単なる事実行為をするか、しないかであり、法律上の問題ではなかった。住民は、行政が見せたくないと判断したものは見ることができなかったということもできる。情報公開条例は、それを、公開請求、公開・非公開の決定という行政処分(形式的行政処分)の形をとることにより、異議申立て、処分取消訴訟の道を開いた。それが情報公開条例にある「行政文書・・・の公開を求める権利を明らかにする」という文言の意味であり、条例が定めるところにより、情報の公開請求ができ、非公開・公開の処分を争うことができるのである。
公文書館の資料が情報公開条例の対象でなければ、条例上の請求権はなく、従って、閲覧を拒否されてもそれを争う法的な手段がないことになる。公文書館では、日常的に閲覧可能か否か判断をしており、その点で全資料が閲覧可能としている図書館や博物館とは異なっているが、同じ扱いでいいのであろうか、ということが先ほどの疑問である。そして、現用文書であれば、法的な権利があるのに、住民の閲覧に供することを目的としている公文書館において閲覧を拒否されても、それを争う手段がないというのは、住民の「知る権利」の保障に資することを目的とする条例の解釈としてそれでよいのであろうかという疑問でもある。
もちろん、公文書館の資料を情報公開条例の対象にするかどうかは、立法政策の問題である。明示されているわけではないが、公文書館は他府県でも条例の対象外と解されているように見受けられる。だが、公文書館保存資料の閲覧についての住民の権利が、情報公開条例制定以前と同じということでよいのであろうか。
今までのところ、公開しなかったのは個人情報だけであり、多少の疑問を持たれた方にも当該箇所を示して、「ここにこういう個人情報があります。」と説明すれば、個人情報であることは了解していただいた。ただ、こんな昔の情報は公開してもいいのではないか、とか個人情報ではなく、団体情報ではないかとの苦情はあったが。
個人情報が非公開であることについては、全国的に周知されており、納得が得られやすいが、条例8条該当という理由のときに納得を得ることは難しいだろう。古くなればなるほど公開が事務事業に与える悪影響は少なくなるとしても、廃棄手続きがされたとは言え、継続中の事務事業に関する情報が記載された書類や類似の書類で、公開することにより、まだ著しい支障が生じる可能性は否定できないからである。そのとき合理的な説明ができ、納得が得られるだろうか。

 国の制度を見ると、情報公開法では、政令で定める公文書館その他の施設において、政令で定めるところにより、歴史的文化的な資料又は学術研究用の資料として特別の管理がされているもの(情報公開法2条2項2号)を法律の対象としないと規定し、除外例として公文書館を明記している。
また、情報公開法の適用対象外とする個々の機関を総務大臣が指定し(施行令2条1項)、該当機関の名称及び所在地を公示し(同条2項)、さらに、情報公開法の公開例外情報は一般利用の除外とする(施行令3条3号イ)旨定め、さらにそれら歴史的資料の利用に関する定めが設けられ、かつ、当該定めが一般の閲覧に供せられていること(同条4号)となっている。
ここまで周到であれば、公文書館保存の歴史的資料類等には情報公開法が適用されないことを説明しても、実務的には苦情が出ないだろう。
ただし、公文書館に移管する前であれば、権利として公開請求できたのに、移管後の公文書館では事実上の閲覧が認められるだけ、という制度上の疑問点は残っていた。

 この点につき、昨年制定された「公文書の管理等に関する法律」では、公文書館の歴史資料につき「利用請求があった場合にはこれを利用させなければならない(管理法16条1項)」とし、その請求は、異議申立てができる法律上の権利である(管理法16条1項)とした。この法律により、国民の公文書閲覧にかかる権利が整合性をもって確立したと言えるのではないか。
これは、公文書館保存資料を情報公開の対象外とするなら、このような権利付与がなされなければ制度的に一貫しないことを示しており、大阪府でも今後検討すべきことではなかろうか。

 さて、本題の個人情報の問題に移ろう。
個人情報保護条例の定義も情報公開条例を踏襲していることから、公文書館保存資料は保護条例の対象外とされる。そうすると、公文書館保存資料に記載された個人情報は、条例による保護の対象外となり、それらを保護するのは地方公務員法(守秘義務)だけになる。もちろん、個人のプライバシーは尊重されるべきで、それを犯したときは不法行為となり、損害賠償の請求ができるし、事前に差止請求もできる(文書の公開が名誉毀損になるとは考えにくい。)。しかしながら、それは、権利侵害として不法行為を構成するときに限られている。現実には、どの資料に誰の情報があるか、どのような情報であるかわからない上、それを他人が知ることにより、どのような被害が本人に生じるかわからない。また、個人情報がすべて守秘義務の対象というわけではないし、誰がその資料を見たか知る術もない(記録はあるが、これも個人情報であり、こちらは条例の対象である。)から、事前には知り得ない。出版物やホームページで個人を特定できる情報が出て、それがプライバシー侵害等の不法行為を構成し、出典が大阪府公文書館保存資料だとわかって初めて事後的に差止めか損害賠償請求を提起することになる。その情報が死者のものであれば、それも難しい。

 事後救済では、個人の権利保護に欠けることから、個人情報全般を保護する目的で個人情報保護法が制定され、大阪府も個人情報保護条例を改正したと理解している。個人のプライバシー情報は、一度漏洩すると取り返しがつかないことから、事前に漏洩を防ぐことが必要である。また個人情報保護法に「高度情報通信社会の進展に伴い個人情報の利用が著しく増大していることにかんがみ(保護法1条)とあるように情報通信技術の発展により、様々な所から豊富な情報を収集することができ、それらを自由に組み合わせることにより、情報を出した側では予想もできなかった重大な結果が生じることもあり、また、瞬時に世界中に流布してしまう、ということも個人情報を保護する目的の法律が制定された理由であろう。そうしてみると、現用であれ廃棄決定をしたものであれ、記載されている情報はなんら変わらないにも関わらず条例の対象外とすることは、個人情報の保護という面からは整合性がとれないことになる。このことは、情報公開条例について記したのと同じであり、公文書管理法には、個人情報保護法と同じような保護規定がもりこまれている。

 大阪府公文書館では、個人情報についても個人情報保護条例の基準に基づいて判断し、閲覧を認めていない。それでは、閲覧を認めないのは一体何年前までの情報であろうか。

 死者の権利を認めている法律として、「死者の名誉毀損罪(刑法230条2項)」や、死者の著作者人格権(著作権法60条)があるが、それらは、特別の法律の規定による場合にのみ、一定の者に権利行使をする権利を与えたのであって、死者が権利主体であることを認めるものではない、とされている。一般には、死者の名誉等の人格権は、一身専属であり、その侵害が、「遺族の敬愛追慕の情を侵害するものであるとき」に、遺族が、自己の権利として、慰藉料を求めることはできると考えられている。死者の個人情報も、その侵害が法的保護をうけるには、遺族の権利との関連で考慮されるのではなかろうか。

 個人情報保護法に関しては、次のような質問と答弁がなされている。
(質問主意書)
国においては、個人情報保護法の規定による「個人情報」は「生存する個人に関する情報であって」とあることについて、「死後であれば・・・個人情報を自由に利用・開示されてもかまわないと考えるのは一般的ではない。むしろ多くの国民が、死後も自己に関する情報はきちんと保護されることを望んでいる。」、個人情報は「死後についても法的な保護を与え」るべき。(平成14年7月25日提出質問第155号)
(答弁書)
死者に関する情報の取扱いについて、「どのような法律上の制度を整備するかは、それぞれの制度の趣旨・目的に照らして個別に判断されるべき」もの。高度情報化社会の進展に伴い個人情報の利用が著しく増大して」いる中で課題となっている個人情報は、「すぐれて生存する個人についてのものと考えられる。」とし、また、「個人情報の取扱いに対するチェックは生存していなければできない」から、生存する個人の情報とすれば「必要かつ十分」である。(平成14年8月27日答弁第155号 内閣総理大臣小泉純一郎)
なお、「死者に関する情報であっても、当該情報が遺族等生存する個人に関する情報でもある場合には、生存する個人を本人とする個人情報として保護の対象となる」。

 保護法に規定する個人情報は、生存する者に関する情報であり、それが、生存する個人の情報でもある場合にのみ法律の保護を受ける、そして、死者は権利の主体ではないからその権利の保護は例外的なものとされている。
大多数の自治体の個人情報保護施策は、これらが前提となっているようだ。
その場合、個人情報も古くなればなるほど、生存する遺族との結びつきが弱くなり、場合によっては無関係になったりする。個人情報も時の経過と共に保護すべき程度が低くなるのである。言い方を変えれば、遺族がいたとして、その遺族の個人情報にならない情報ならすべて閲覧に供してもいいのではないか、ということである。作成後30年経過すれば、すべて公開する、とか、60年とかいうのもそのような事情もあってのことだと思われる。公文書管理法は、非公開基準に該当するか否か判断するに当たっては、当該文書が「作成又は取得されてからの時の経過を考慮する」旨規定された。事務事業情報だけでなく、個人情報にも適用される。

 死者の情報で、遺族自身の情報ともなるものは何か。本籍地、遺伝的病気・体質はそうだろうが、族籍はどうか。遺族自身の情報とはならないが、不名誉な情報はそれが事実であっても、遺族感情を害するだろう。死者の名誉毀損の要件を持ち出しても始まらない。逆に、遺族に聞けば公開できるものもあるだろう。顕彰対象を決定するときに提出された個人の履歴書などもどうだろうか。給与、住所・電話番号、生年月日・死亡年月日、経歴、一般的な病名等は、遺族の敬愛の念を損なう情報だろうか。

 一方、何年経過しようが、公開できない情報も当然存する。先日、個人情報に対する情報公開の例を調べていたら、仙台地方法務局にある明治五年式戸籍簿(いわゆる壬申戸籍)の閲覧請求に対する国の情報公開審査会の答申が眼についた。それによると、仙台法務局へは、昭和59年に仙台市役所から移管され、戸籍課の書庫内に「包装封印されたままの状態で」保管されており、保管するのは、「遠い将来における歴史的資料となりうる」からというのである。答申は、この資料が、「職員が組織的に用いるものとして」管理しているものではない、として請求を退けているが、内容的にも、何年たったから公開するといえるようなものではない。

 ところで、大阪府個人情報保護条例では、「生存する」個人の情報を保護するだけでなく、死者の情報も保護している。「生存する個人の情報」としている個人情報保護法と異なり、個人情報とは、「個人に関する情報であって、特定の個人が識別され得るもの」と定義されている。個人情報保護法の制定と同じ時期に改正された、条例の広報用パンフレットによると、団体役員情報や個人事業者情報も個人情報にあたる、としている。
また、大阪府個人情報保護審議会は、医療情報であるレセプトの遺族への開示に関連して、平成9年10月27日、次のような建議を行っている。
 大阪府個人情報保護条例では、「死者に関する個人情報」についても、条例でいう「個人情報」として扱い、その保護を図るべきである。医療情報には、相続性は認められず、遺族自身の個人情報とみなすことはできない。家族への情報提供も、原則として審議会への目的外提供の諮問が必要になる。また、病名等には遺族であっても知られたくないと認められる情報があるので、死者の権利利益の保護を第一に考慮し、情報提供することによる本人の権利利益の損害のおそれについても十分配慮すること。

 保護条例が、公文書館保存資料には適用されないとしても、条例は、議会の議決も得た、大阪府の個人情報保護の基本方針である。この条例のもとで、公文書館保存資料に含まれる個人情報をどう扱うか、慎重な検討が必要である。今まで、個人情報は、原則として閲覧に供してはこなかった。しかし、死者の個人情報といっても100年前のものもあれば、5、6年前のものもあって、同列に扱うことはできない。閲覧に供することを目的として保存されている歴史的資料に記載された個人情報について、条例の趣旨からして、いつまでのどのような個人情報を保護すべきなのか、検討しなければならない。公文書管理法が制定された現在は、その時期として適当だろう。特に、府では情報公開、個人情報、歴史的資料閲覧の窓口が一体化するのであるから、検討もしやすいのではないか。

 公文書館が存続すれば、公文書館法に規定があるように公文書館設置条例を制定することが考えられ、その中で資料作成時期と個人情報の関係、閲覧請求権等の問題が処理できると思っていた。公文書館保存資料を十分に活用できるようにするには、公文書館としての基準を設けることが必要だと思っていたからだ。多くの人や団体、個人情報保護審議会等の意見も聞きながら、個人情報も含めた資料の閲覧の在り方を検討しなければ、館の利用も進まないのではないか。歴史の研究には個人情報が必要になることもあるし、伝記を書くには個人情報自体が調査の対象だろう。
もちろん、個人情報保護条例は、公文書館保存資料には適用されないから、公文書館関係者で定めればよいのではないか、という意見もあるだろう。しかし、先述したように、個人情報保護条例は、大阪府の個人情報保護の基本方針・基準だから、府の機関は、条例の基準を尊重し、個人情報の保護に努めなければならないのではないか。その基準と異なる基準が許されるには、やはり議会の決議に基づく条例による基準作りが必要なのではないか。

 個人情報の公開に関して、いつも気になっていることがある。それは、一度公表された情報はいつまで公開すべき情報として扱われるのか、ということである。
たとえば、刑事事件の判決がある。裁判は公開されるので、被告人の氏名も、量刑や犯行に至った動機・経緯も公開されている。しかし、後日には、その情報は、いわゆる前科情報として公開すれば重大なプライバシー違反となりうる。民事でも同じことがいえる。健康被害、家庭問題、相続争い等公開の場で主張されたことだと言っても、他人が公開すべきものではなかろう。
かつて、職員の懲戒処分の内容は、被処分者の職・氏名を明らかにして報道提供をしていたので、報道提供資料としてエコーセンターで誰でも閲覧できた。ある日これに気付き、個人の権利を損なう情報だとして撤去したことがある。この資料は、報道機関に伝わった時点で役目を終えているし、処分歴は個人の秘密に属するからである。
役目を終えた資料と言えば、公職選挙の候補者の選挙公報があげられる。選挙公報には、学歴、住所、信条等個人情報が満載されているが、だからといって、被選挙人のこれらの個人情報が保護されなくともよいということにはならない。
また、公職選挙の当選告示では、氏名と住所が官報や公報に登載される。この住所の記載が、当選人を特定するためのものに過ぎないとすれば、当選人の住所は、なお、保護すべき個人情報ではないか。
土地登記簿、法人登記簿も現在の取引の安全を図るため、個人情報を記載し、公開している。現在の取引に関係ない古い登記簿記載情報はどうなのか。
府営住宅明渡訴訟提起の議案記載の個人の住所・氏名、滞納状況は、等々、
公文書館は、保存資料を公開することにより、その役割が果たせる。一方、個人情報保護、円滑な行政確保の見地から公開できない情報、公開してはならない情報がある。情報公開条例、個人情報保護条例との関係が整理され、保存している貴重な資料が幅広く活用できるようになることを希望することを表明してこの稿を終わります。

■平成21年度大阪府公文書館アーカイブズ・フェアをふりかえって

 平成21年10月1日(木)から11月27日(金)まで、“大阪府公文書館アーカイブズ・フェア”として、企画展・古文書講座・歴史講座・特別講座を開催しました。今年度は、できるだけ多くの方々がご来館いただけるようにと、10月24日(土)、25日(日)、11月3日(火)文化の日、23日(月)勤労感謝の日を特別に開館し、展示や講座のご参加をいただきました。
企画展テーマは、「所蔵資料で振り返る大正期の大阪府」で、当館2階展示室において、当館所蔵の大正期の大阪府知事写真(犬塚勝太郎、大久保利武、林市蔵、池松時和、井上孝哉、土岐嘉平、中川望)、方面委員制度、小作争議に関する文書、新築大阪府庁舎の写真などを展示しました。
古文書講座は、当館所蔵の川中家文書(江戸時代の庄屋文書)を用いて初心者向けの講座を、歴史講座は、第1回「公文書館所蔵資料でみる、大正時代の大阪」を、第2回「戦前日本の国家と地方の財政 -地方「自治」の問題を焦点として-」を、当館非常勤嘱託員が行いました。
今年度の特別講座は、昨年度よりも多くの講座を開講することができました。これも、ボランティア(無報酬)にもかかわらず、講師を引き受けてくださった歴史研究者、郷土史研究者の方々のご協力のおかげです。今年度の特別講座講師を引き受けてくださった先生方におかれましては、ここで改めまして、心よりお礼申し上げます。
また、各講座を受講された方々からは、アンケートのご協力をいただき、誠にありがとうございました。
企画展で展示しました主な資料や講座で紹介しました当館所蔵資料などについても記載しておりますので、興味のある方は、是非、閲覧ください。

企画展
「所蔵資料で振り返る大正期の大阪府」
★アンケートによるご意見・ご感想
・明治~大正~昭和時代の大阪市内・府下の町並みの変遷がわかる資料の展示をしてほしい。
・大正時代の大阪の展示は、素晴らしい!もっと府民に見学してもらうためにも、もっと広報をされたらと思います。
・この展示を細かく見ていくとかなりの時間を必要とすることを再認識しました。
★主な展示資料
・方面委員一件書類(大正8年:民生委員の元となった大阪府の方面委員に関する文書)
・郡役所廃止一件(大正15年:郡役所廃止手続き等に関する文書)
・大阪新名所 新世界写真帖(大正2年:新世界、娯楽施設などの様子がうかがえる写真帖)

古文書講座
(10月13・20・27日(火曜コース)、14・21・28日(水曜コース)、15・22・29日(木曜コース)[各コース同じ内容])
「古文書の解読」(初心者向け)
講師 松田 ゆかり(当館非常勤嘱託員)
★アンケートによるご意見・ご感想
・古文書を読むのが初めてだったので、くずし字が難しかった。
・入門講座だけでなく、もう少しレベルアップした講座も開いてほしい。
・もう少し、回数を増やしてほしい。
★紹介した当館所蔵資料
・寺社御改吟味帳(江戸時代:現在の東大阪市の旧庄屋の川中家文書)

歴史講座
第1回 (11月17日・火)
「公文書館所蔵資料でみる、大正時代の大阪」
講師 矢嶋 光(当館非常勤嘱託員)
★アンケートによるご意見・ご感想
・大正デモクラシー、民衆が歴史の舞台に登壇する画期的な時代かと思います。そのことに関心があり、受講しました。
・大正期の大阪、特に方面委員制度に興味があります。
・殆ど年配の受講者ですが、若い人にもっと受講してもらえるよう、工夫、PRが必要。(若い人に歴史を知ってほしい。)
★紹介した当館所蔵資料
・方面委員常務委員会議事録(大正8年:方面委員制度発足後1年目に開かれた会議記録)
・大阪府統計書(大正時代:大阪府の人口、土地、気象、経済等の統計年鑑)
・農民組合運動史(昭和35年:明治から昭和前期の農民組合運動の流れと状況)

第2回 (11月23日・月)
「戦前日本の国家と地方の財政 ―地方「自治」の問題を焦点として-」
講師 矢切 努(当館非常勤嘱託員)
★アンケートによるご意見・ご感想
・地方財政のこれまでの経過がよくわかって良かった。
・地方自治の始まり、明治維新の自由民権運動の存在の大きさを知る。
・明治時代の地方自治の反省から何を求めるのか、大変参考になった。
★紹介した当館所蔵資料
・三部制廃止ニ関スル一件(大正14年:市郡連帯・市部・郡部の三部に分けて行われてきた三部制が大正14年に廃止される。廃止の際の諸手続き等のまとめられた文書)
・例規 予算2(明治45年~:この文書の中に大正11年に内務省地方局長より大阪府知事あてになされた府県税戸数割の課税標準の取扱いに関する通牒などがある。)
・朝日年鑑(大正15年:当時の様々な統計データ、財政事情、労働・小作運動の状況、法案などが掲載された統計年鑑)

特別講座
第1回 (10月24日・土)
「与謝野晶子物語 ―大正時代の晶子―」
講師 西 真理子氏(与謝野晶子研究者)
★アンケートによるご意見・ご感想
・晶子の一面をソフトで又鋭く突いたお話を聴くことができ、楽しく過ごさせていただきました。
・晶子さんの歌には、とても深い意味が込められていることも改めて感じ、それだけの苦労があったと思いました。
★当館に所蔵する関連資料
・泉州地区写真原稿(昭和40年ごろ:泉州地区の写真のうちに「与謝野晶子の碑」がある。)

第2回 (10月25日・日)
「カナダのフランス語圏:ケベック州の伝統料理」
講師 友武 栄理子氏(関西学院大学非常勤講師)
★アンケートによるご意見・ご感想
・カナダの大まかな歴史がわかり興味深く、ケベックなどの東側については、ほとんど知らなかったのがよくわかって楽しかった。
・料理の写真をたくさん見ることができ、楽しく受講できました。
・講座を休日にされるのも、良いかもしれません。
★当館に所蔵する関連資料
・昭和44年度外国使節知事訪問記録(大阪万博へ参加出展することを決定し、カナダケッベック州政府代表が知事を表敬訪問)

第3回 (11月3日・火)
「大陸横断鉄道旅行から見るカナダ ―カナダ歴史紀行150年―」
講師 宇都宮 浩司氏(博士〔経済学〕)
★アンケートによるご意見・ご感想
・違った角度からのカナダの見方、昨年同様とても興味深く拝聴できました。
・鉄道の上を旅客車が走っている風景を見たかったのですが、世界の車窓は、ここでは映らなかったのが残念でした。
★当館に所蔵する関連資料
・第5回内国勧業博覧会開会式奏上文(明治36年:大阪市内で開催された博覧会に、外国からの参加国はまだ少ない中で、カナダは国を挙げて出展し好評を博した。)

第4回 (11月6日・金)
「しろうと演劇の近代 ―戦争とやくざ芝居をめぐって―」
講師 畑中 小百合氏(大阪大学非常勤講師)
★アンケートによるご意見・ご感想
・戦前、母が農村で芝居(愛染かつらの看護婦長さんの役)をしたことがあると言っていた話を思い出しました。
★当館に所蔵する関連資料
・松竹関西演劇誌(昭和16年:明治元年からこの時期に至る関西における演劇方面の業績をまとめたもの)

第5回 (11月10日・火)
「中原淳一の女性像 ―『美しい』女性とは何なのか」
講師 小山 有子氏(大阪大学非常勤講師)
★アンケートによるご意見・ご感想
・中原淳一の哲学、美しい女性とは、身だしなみを整え、自分と出会う人に快く思ってもらえるようにと、相手のことを思いやることなのですね。とても勉強になりました。
★当館に所蔵する関連資料
・女性(日本史小百科)(昭和52年:女性の社会的地位、近代女性の歩み、女性と文化などの女性史辞典)

第6回 (11月13日・金)
「南北戦争期アメリカの大陸横断郵便 ―ポニーエクスプレスの事例を中心に―」
講師 森本 行人氏(関西大学非常勤講師)
★アンケートによるご意見・ご感想
・当時の駅馬車の様子を再現したムービーが、おもしろかったです。
・興味深い講義で、もっともっと詳しく継続していってほしいと切に願います。
★当館に所蔵する関連資料
・郵便事業の現状と問題点(昭和62年:総務庁の行政監察結果)

第7回 (11月16日・月)
「日本の医療制度と世界の医療制度の違い ―医療の受け方、医師と患者の関係について、イギリスとの比較を中心に―」
講師 田畑 雄紀氏(関西大学非常勤講師)
★アンケートによるご意見・ご感想
・イギリスの制度と比較することで日本の制度の長所、短所も含めてよく理解でき、私も良い患者になれそうな気がします。また、先生の医療経済学で「患者の事をよく考えている医者」を増やす策(医療制度、医師の養成)ができるように頑張ってください。
・医者からの視点で考えたことがなかったので、新鮮だった。
★当館に所蔵する関連資料
・医制百年史(昭和51年:厚生省が明治時代から戦後高度経済成長期を通じて、日本の医療制度がどのように発展してきたかをまとめたもの)

第8回 (11月19日・木)
「大正5年の台湾旅行」
講師 澤崎 瞳氏(関西大学大学院後期課程)
★アンケートによるご意見・ご感想
・大正5年の台湾旅行について、何があるのだろうかと思っていましたが、受講して納得しました。
★当館に所蔵する関連資料
・秘書綴 明治25~28年(明治28年:この文書の中に大阪府内石川郡外6郡の郡長を務めたものが台湾民政官に転任した旨の電報案文がある。)

第9回 (11月27日・金)
「古代交通の歴史 ―交通の古代から近代への変遷―」
講師 山本 祐弘氏(郷土史研究者)
★アンケートによるご意見・ご感想
・交通の変遷を知りたいと思い、受講した。次回には近代の交通を受講したい。
・前年のなにわ言葉を大変面白く拝聴したのを覚えています。今回の道路成立(古代の人々が道路づくりを苦心して造成され、その道が現代にまで至っている)を面白くお話しされました。毎年拝聴しており、今後とも継続願います。
★当館に所蔵する関連資料
・都市交通の基本計画(昭和32年:大阪府土木部が大阪の昭和50年の予測を基礎に立案した主要幹線道路計画)

■第24回大阪府公文書館運営懇談会

平成21年12月17日(木)午後2時から4時まで当館3階会議室におきまして、第24回大阪府公文書館運営懇談会が開催されました。
(出席委員)4名
・山中永之佑座長(大阪大学名誉教授、大阪経済法科大学アジア研究所客員教授)
・?田常三郎委員(元大阪府人事委員会事務局長)
・村田保委員(財団法人住吉村常盤会理事)
・山中浩之委員(大阪府立大学教授)
(傍聴者)10名

【議事の概要】
1 府立図書館への「公文書館の所蔵資料の移管問題」、公文書館移転問題等について、委員よりの質問に答える形で事務局より説明がなされ、それに対する質疑応答、意見交換が行なわれた。
2 座長より議論のとりまとめとして、文献の図書館への移管は、公文書館機能の低下・府民サービスの低下になり、ますます府民の利用が少なくなるので、図書館に移管せず、府公文書館の果たすべき役割や機能が充実するような努力を期待するとされた。

なお、当館所蔵資料の図書館への移管については、
後日事務局(府政情報室)から運営懇談会委員に
対し、国際児童文学館の建物を新たな書庫として
確保することが可能となったことから、行わない
こととした旨、説明しました。
懇談会議事録の詳細は、当館ホームページの
http://www.pref.osaka.lg.jp/johokokai/archives/unei24-2.html に掲載しております。

■利 用 案 内

◆ 閲覧時間
・月曜日から金曜日 午前9時15分から午後5時
◆ 休館日
・土曜日、日曜日、祝日及びその振替休日
・年末年始(12月29日から1月3日)
・毎月末日(土・日等休日の場合は、その前日)
公文書館は、主に府が作成・入手した公文書や資料類のうち歴史的・文化的な価値があるものを保存し、広
くみなさんにご利用いただく施設です。
最寄駅
 阪堺電軌上町線帝塚山三丁目駅(徒歩3分)
 南海高野線帝塚山駅(徒歩6分)
 大阪市営バス姫松、府立総合医療センター
 (徒歩6分)
大阪府公文書館 大阪あーかいぶず 第44号 平成21年9月1日発行
〒558-0054 大阪市住吉区帝塚山東2丁目1-44/Tel06-6675-5551/FAX06-6675-5552
ホームページ  http://www.pref.osaka.lg.jp/johokokai/archives/

住所
大阪市中央区大手前2丁目1-22 大阪府庁本館1階
Tel
06-6944-8371
Fax
06-6944-2260
このサイトのご利用について
Copyright © 2014 Osaka Prefecture Archives All Rights Reserved.